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八木重吉詩集 1

八木重吉の詩


 本箱を整理していて八木重吉詩集(世界の詩52 弥生書房 1968年初版1995年28班発行)を見付けた。読んだ記憶はなく買って忘れていたようだ。 
 Wikipediaによると鈴木重吉(1898-1927)は現在の町田市の生まれで、東京高等師範学校(現筑波大学、東京教育大学の前身))を1921年に卒業、御影師範学校(現神戸大学)次いで25年から柏東葛中学校(現千葉県立東葛高等学校)の英語教員を勤めながら、詩を書き続け、29歳で結核のため亡くなった。クリスチャンでキリスト教関係の詩も多く残している。八木重吉全集(全4巻2000年筑摩書房)などがあり、出身地町田市には1984年八木重吉記念館が開設されている。
重吉の写真は柏東葛中学校(現千葉県立東葛高等学校)の英語教員の時代の写真です。 

  

   
 読んでみたら、優しさに溢れた美しい詩が一杯でした。短い詩ですが、何回かに分けてご紹介します。

 
          おおぞらの こころ

      わたしよ わたしよ
      
      白鳥となり

      らんらんと 透きとおって
     
      おおぞらをかけり

      おおぞらの うるわしい こころにながれよう    
      


               雲

      くものある日

      くもは かなしい


      くものない日

      そらは さびしい



        不思議

      こころが美しくなると

      そこいらが

      明るく かるげになってくる

      どんな不思議がうまれても

      おどろかないとおもえてくる

      はやく

      不思議がうまれればいいなあとおもえてくる 





             夾竹桃

      おおぞらのもとに死ぬる

      はつ夏の こころ ああ ただひとり

      きょうちくとうの くれないが

      はつなつの こころに しみてゆく



                         冬

      葉は赤くなり

      美しさに耐えず落ちてしまった

      地はつめたくなり

      霜をだして死ぬまいとしている


 
 詩は病弱な詩人の鋭敏な感覚から生まれたのかなと思いました。
   美しくも痛々しいと感じます。 

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冬の午後

冬の午後




    
    
    
   
   










いつになったら忘れることができるのだろう

彼女の面影

そう、彼女は彼女で彼ではなかった

しかし私の中には男性でも女性でもない彼女がいる

1月の寒い午後、私は夫とかつての母校への道を歩いた

足を引きずりながら長い坂を登った

冬休み、学生の姿はなかった

私は夫と校内へ入った

懐かしい、それだけではなく未だに鈍く痛む胸

あれから40年近い年月が流れているのに

校舎は変わっていなかった


彼女はどうしているだろう

結婚して母となっているだろうか

この校舎に続く坂道 今は夫が隣にいる

当時は彼女が隣にいた そして私は寡黙だった

彼女の眼を見つめるたび私は混乱した

そして一言の言葉も発せられなくなる


下級生たちの群れ

彼女は何も感じていないようだった

ときどきキャーという歓声さえ起こるのに

彼女は違う大学に進んだ そしてその時私は心に誓った

もう2度と会うまいと 苦しくなるだけだからと

誰か他の人を愛することがあるとは信じていなかった


「ここから行ける近道があったのよ」私はいう

そしてまたある四辻でいう

「ここからも行ける近道もあったのよ」

しかし私はその近道をすべて忘れていた。

そして北風は舞う

夫はわたしの手を握って足取りの危ない私を支えてくれていた

薬のせいで膝が上がらずすぐすり足になる

私の病を治してくれたのは彼だった 随分遅れてきた彼だった


彼女の面影が私から消え去る日は来るのだろうか

1月の上旬だった

夫と二人かつての淡い恋の思い出が色濃く残る道を

彷徨い歩いた午後だった。


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悲しいイブ

      
    
    
    









悲しいイブ



     君と僕は君のマンションで毎年共にイブを過ごす
 
     君の薬指には何時ものサファイアのリングが光る

     部屋には飾られたクリスマス・ツリー
 


     そして君は相変わらず絶望している  

     笑顔の裏には果てしない悲しみがある
 
     僕は君を愛しているのか、苦しめているのか
   


     君はいつか失われるのか

     はかない生命線をもち
 
     医師のカルテには希死念慮ありと書かれてしまう君



     君は僕を愛しているのか、

     信じているのか 

     僕は君を幸福に出来るのか、不幸にしてしまうのか   



     ナイトテーブルの上には空になって転がる薬瓶

     手首にはツリーの照明で、ときおり浮かびあがる深い傷跡



     非力な僕、悲しすぎる君

     二人はどちらかの命が絶えるまで 

     こうして一緒にクリスマスを過ごすのだろうか





 わたしは、最近ある年の離れた女と男の物語を、語り手を女性として書いています。この物語は、シリアスなフィクションで、「悲しいイブ」という同じ題です。先日、その物語の連載を始めました。 
 その創作過程で、湧いてきたのがここに揚げる「詩」です。 わたしは、「詩作」は初めてでお目にかけるような作品でないかもしれませんが、お読み頂ければ大変嬉しいです。
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kiyoi08

Author:kiyoi08
ご訪問ありがとうございます。
お立ち寄りいただけましたら、狂喜乱舞します。
統合失調症患者ですが、巫女だともいわれます。
現実と幻覚のあわいを行きます。
よろしくお願いします。
 

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